40徳積島は、仁川沿岸から南西に広がる徳積群島でもっとも大きな島です。8つの有人島、33の無人島からなる徳積群島の島々は、いずれも仁川の徳積面に属しています。
仁川沿岸から徳積島のドウ船着場までは海路でおよそ45km。乗客用の高速船なら約1時間10分、カーフェリー旅客船なら約1時間30分で到着できます。
カーフェリーは仁川沿岸のほか、安山大阜島のパンアモリ船着場からも利用できます。出発地からのアクセスを考慮して船着場を選べば、いっそう気軽に徳積島へ行くことができます。
トラベルライター「ヤン・ヨンフン」 大学卒業前からの記者活動を辞め、フリーのトラベルライターとして活動。気づけば30年経歴のライターになった。今も相変わらず、当てもなく旅を続けている。社団韓国旅行作家協会の会長を務め、『あなたとともに、ヨーロッパ』『美しい海の旅 1・2』など、計15冊の著書を執筆。
玉砂利の浜とアシ原が溶け合う、秘境の浜辺
ドウ船着場に着き、徳積島の名所のなかでもっとも遠くにある陵洞ジャガルマダンへ向かいました。わずか7kmほどの距離です。
十数分で着いた陵洞ジャガルマダンは閑散としていました。穏やかな波が玉砂利の浜を撫でるたびにこぼれる潮騒だけが心地よく耳に届きました。海の色はガラスのように澄みわたり、水底に沈んだ玉砂利が透けて見えました。
玉砂利の浜のベンチに腰かけて海の景色をカメラに収めたり、涼やかなあずまやでそよぐ潮風を感じたりしました。浜には願いを込めた石積みの塔が立っていて、濃いピンクのハマナスもところどころに咲いていました。でこぼこの玉砂利の上を歩いて、浜の中央にそびえているラクダ岩の背によじ登りました。
地に伏せたまま沖をながめるラクダの姿をしたここは、まさに天然の展望台です。陵洞ジャガルマダンの全景が視界に飛び込んできます。すぐ目の前には無人島のソンミ島がぽつんと浮かんでおり、左側には徳積群島随一の名所であるクロプ島が見えました。
陵洞ジャガルマダンの入り口にある広い駐車場のそばには、生い茂ったアシの湿地が広がっています。晩秋から初冬にかけては、陽ざしを浴びて銀色に輝き、まるで波のように揺れる光景も見られます。アシ原のすぐ隣には、木陰の心地よいシデの林があります。林の中には屋外テーブルが置かれているため、休憩しながら弁当や軽食を味わうこともできます。
徳積島随一の天然展望台
韓国の島々と同じく、徳積島は島そのものが一つの大きな山です。山裾と浜辺、そして海が接しているためです。徳積島でもっとも高い峰は、北西にそびえるククス峰(314m)。だが、もっとも人気の高い美しい峰といえば、南の飛鳥峰(292m)です。岩稜の美しさが際立ち、眺望も抜群であることから、ブラックヤクの「島&山100」の一つにも選定されました。せっかく徳積島まで訪れたのなら、この島の魅力である飛鳥峰に登ることをおすすめします。
宿泊先である徳積島自然休養林に車を停め、飛鳥峰を登り始めました。西浦里のリサイクル選別場のあたりから飛鳥峰の頂、休養林までのコースを選びました。このコースの総距離はわずか2.21km。比較的短いとはいえ、上り下りは決して侮れません。
▷ 休養林の前から登山口まで移動する際には、面所在地の鎭里と西浦里の間を運行中の郡内バスを利用しました。
西浦里のリサイクル選別場から飛鳥峰の頂までの距離は1.15km。平地であればおよそ15分ほどで歩けますが、ここでは少なくとも1時間くらいはかかります。それほど大変な道のりです。
飛鳥峰の登山道は、はじめから急な上り坂の連続です。丸太の階段やロープをつかんでよじ登る岩場を越えて約20分後、ようやく傾斜の厳しい森の道を抜けました。視界の開けた尾根道に出ると、胸が晴れるような気がしました。
尾根道にはデッキ展望台も設けられている。足もとには鎭里と西浦里を結ぶ海岸線と道路があります。右側には、広い砂浜と松林がある西浦里の全景が手に取れそうなほど近いです。西浦里の集落の背後には、ククス峰の山頂に立つ軍部隊の鉄塔がそびえていました。
西側の尾根道では、森・草地・岩場の区間が交互に現れます。力動的でリズミカルな登山道なので、歩く楽しさもひとしおで、目を楽しませてくれるものも多いです。とりわけ、狭い岩の隙間に根を張り、けなげに生えているマツやネズの生命力には、思わず胸を打たれてしまいます。
例のデッキ展望台から飛鳥峰の頂までは約40分の道のりです。傾斜は比較的なだらかですが、だからといって油断は禁物です。ロープやはしごまで備えられた険しい区間が伏兵のように待ち構えているからです。それでも退屈だったり大変だったりしませんでした。徳積群島一帯の海の景色をまるごと抱きしめるような、見事な天然展望台をあちこちで見ることができたからです。
出発してから約1時間、ついに飛鳥峰の頂に立ちました。「空を舞う鳥」に似ているという飛鳥峰には、今にも空へ飛び立ちそうなほど飛鳥亭がたたずんでいます。さすがは頂に建つあずまやだけあって、東西南北の方角を眺めることができます。うっそうとした松林と清らかな砂浜を抱くパッチルム海岸、面事務所のある鎭里の集落、徳積島と蘇爺島を結ぶ徳積蘇爺橋、そして、その橋で徳積島とつながっている蘇爺島の全景まですべてを一望できます。
あとは下るだけです。面事務所のある鎭里の集落までは1.2km、徳積島自然休養林までは1kmです。 鎭里の集落へ下る道は比較的長いですが、道自体はなだらかです。一方、休養林へ下るコースは短いものの、急傾斜の区間が多いので気をつけたほうがいいです。
ロープをつかんで下る急な坂道と、松の香りが濃く漂う松林の道を抜けて、徳積島自然休養林にたどり着きました。飛鳥峰の頂からおよそ30分。安堵のため息と胸いっぱいの達成感がいちどにこみ上げてきました。
海が見える森のリゾート
徳積島の海辺に広がる鬱蒼としたマツ林の中に、開業⚀年目の自然休養林がたたずんでいます。合計60億ウォンを投資し、2025年3月にオープンした徳積島自然休養林のことです。 甕津郡が飛鳥峰の南東麓、およそ12万㎡のマツ林に整備した公立自然休養林は、現在徳積面事務所が直接管理および運営しています。
徳積島自然休養林には、コンドミニアム型の客室「山林休養館」(4室)、一棟貸しの宿「森の家」(5室)、区画ごとに大きなデッキを備えたキャンプ場(6区画)など、さまざまな宿泊施設がそろっています。できたばかりの新しい休養林だけあって、どの施設も清潔で快適です。とりわけ木々の下にぽつりぽつりと点在する森の家は人目を気にせず、自分だけの時間を満喫できます。
徳積島自然休養林の一番上にあるキャンプ場には、全6区画のデッキサイトが設けられています。そのうち1・2番は他のサイトから離れており、二家族が一緒に利用するのにちょうどいいです。残りの4区画は、トイレやシャワー室、炊事場などの施設の裏手に配置されています。背後には背の高いマツが屏風のようにぐるりと立ち並び、濃いマツの香りが全身を包み込みます。
徳積島自然休養林の施設のなかでも、とりわけ印象に残ったのはカフェテリアです。キャンプ場の1・2番サイトのすぐ下にあり、飛鳥峰からの下山道で真っ先に出会う建物です。館内には、ゆったりとした安楽椅子とテーブル、コーヒー自動販売機が備えられています。 安楽椅子にゆったりと腰かけ、コーヒーを味わいながら大きな窓の向こうに広がる海を眺めることができます。
海を眺めるだけでは物足りないのなら、休養林の入り口から歩いてもわずか3〜4分で行けるパッチルム海岸を散策してみるのもおすすめです。
キャンプも海水浴も満喫できる、ロマンあふれる海辺
徳積島の名所のなかで、個人的に好きな場所はパッチルム海岸です。徳積島はどこへ行ってもマツ林を見ることができますが、一番美しい場所といえば、このパッチルム海岸のマツ林です。約600mの長さのこぢんまりとした白砂の浜に沿って、樹齢数百年のマツがびっしりと立ち並んでいます。
老松の堂々として気品あふれる姿は、眺めているだけでも心が満たされます。しかもここでは、木陰の柔らかな砂地にテントを張って一夜を明かすこともできます。マツ林が好きな人や、キャンプを愛するバックパッカーにとっては、まさに楽園そのものでしょう。
10年ほど前、このパッチルム海岸のマツ林で野営したことがあります。テントのファスナーをそっと開けるだけで、目の前に美しい海が広がり、座布団のようにふかふかの砂浜に寝そべって夜空を見上げれば、無数の星明かりが滝のように降りそそいできました。あのときの強烈な記憶は、いまも昨日のことのように生々しいです。
パッチルム海岸のマツ林と白砂の浜は喜びに満ちています。奥ゆかしいマツの香りは嗅覚を、数百年の歳月を耐え抜いてきたマツの姿は視覚を、浜辺に打ち寄せる波の音は聴覚を、足裏にやわらかく伝わる砂の感触は触覚を、それぞれの感覚を心地よく刺激します。この美しい場所では、どんな料理も一品料理に変わり、母の手料理のように感じられるに違いありません。
パッチルム海岸の魅力に心を奪われ、しばらく浜辺を歩き、ようやく踵を返すことができました。駐車場へ向かう途中、「海兵隊上陸場所」と書かれている記念碑が目に留まりました。碑の下には、次のような言葉がありました。
「この海上は、朝鮮戦争の折、仁川上陸作戦に先立ち、国連軍の艦船がウォルミ島に向けて艦砲射撃を行った場所であり、1950年8月18日、海軍少尉ムン・ソクスの指揮のもと、この海岸を通じて徳積島を占領していた敵軍を追い払うため、わが海兵隊が上陸した地である」
広大なマツ林と真っ白な砂浜がある観光スポット
徳積島を語る時、決して外せない場所。それは西浦里海岸です。果てしなく続く砂浜と趣のあるマツ林があるため、徳積島随一の観光スポットとして有名です。すでに1973年、西海岸初の観光地として指定されました。その後、1991年から本格的な総合観光地開発事業が進められ、ペンションや食堂、キャンプ場などの観光インフラも比較的充実しています。
西浦里海岸は、想像をはるかに超えるほど広く大きいです。あまりにも広いため、引き潮のときはよほど歩かないと海水に足を浸すこともできないほどです。スゲや芝が敷かれた砂浜の一角には、日除けタープも設けられています。西浦里海岸では、どこでもテントを張ってキャンプを楽しめます。砂浜でも、近くのマツ林でも、オートキャンプ場でもキャンプを楽しめます。ただし、所定の料金を支払わなければなりません。
西浦里海岸には四季を通じて、観光客やキャンパーの足が絶えません。海水浴をしなくても海をぼんやり眺めたり、マツ林をゆっくりと散策したりするだけで心が安らいでいくからです。
天然記念物として保護されるほど希少な水鳥、ミヤコドリの群れがこの浜辺をせわしなく歩き回りながら餌を探している光景も目に飛び込んできます。自然生態系が健やかで、貝やゴカイなどの餌が豊かであるからに違いありません。
西浦里海岸の最大の魅力は、鬱蒼としたマツ林です。砂浜沿いの海松の散策路にはクロマツ(海松)が延々と立ち並び、集落側に設けられた「ウェルビーイング森林浴散策路」では、ひと抱えもあるアカマツ(陸松)が枝を伸ばし、独特の趣を誇っています。マツ林の地面には木製デッキやヤシマットが敷かれ、居心地のよい休憩所もあるので、時を忘れていつまでも歩くこともいいでしょう。
西浦里海岸は、日没と夕焼けの美しさでも有名です。日没の遅い春の終わりから初秋にかけては、海へと落ちてゆく夕日を望むのは難しいものの、それ以外季節には西浦里一帯の空と海を茜色に染める日没と夕焼けを堪能することができます。海岸道路(徳積南路)沿いには、夕日と落照を眺めるのにうってつけの「落照台休憩所」という二階建てのあずまやもありますが、残念ながら現在は立ち入り禁止状態です。
素敵な海辺のマツ林キャンプ場と「不思議な海の道」がある小島
徳積島の南西には蘇爺島があります。三国時代である660年、唐の将軍である蘇定方が、新羅と手を結んで百済を攻める前にとどまった島とされ、「蘇爺島」と呼ばれるようになったと伝えられています。
蘇爺島は、徳積島の面積のわずか7分の1である小島です。徳積・蘇爺橋が開通した2018年5月以降は、船に乗らずとも徳積島と蘇爺島を行き来できるようになりました。現在、蘇爺島を訪観光客の多数は、テップル海岸の野営場を訪れる人々です。
「テプリ海岸」とも呼ばれるテップル海岸には、居心地のよい野営場があります。海辺のマツ林にあるこの野営場は、駐車場・トイレ・炊事場・シャワー場・芝生広場・デッキサイトなどの設備が揃っており、キャンパーたちの間で非常に人気が高いです。野営場と海水浴場が隣り合っているため、海水浴を楽しむにも申し分ありません。どこにテントを張っても、美しい海の風景をすべて味わうことができます。
テップル海岸へ行く途中、引き潮のたびに「神秘の海の道」が姿を現すソンチョン港に立ち寄ってみるのもいいでしょう。蘇爺島の本島、防波堤のあるカッ島、カンデッ島、ムルプレ島などがひと続きにつながっている光景を見ることができます。もちろん、引き潮とともに現れる海の道をたどって、端にあるムルプレ島まで歩いていくこともできます。ただし引き潮のとき、海水が満ちはじめたら決して無理やり入っては行けません。
海上遊歩道と鬱蒼とした森を歩く海岸散策路
徳積島の玄関である鎭里のドウ船着場のかたわらに、とても心地よい海岸散策路があります。かつての案内板には「トウックッ海岸散策路」と記されていましたが、現在の徳積面観光リーフレットの地図には「トウ散策路」あるいは「トックップリ海岸探訪路」とだけ書かれています。この道は農協ハナロマート前の帆船展望台から始まります。
今のトウックッ海岸散策路には十数年前に比べて、大きく変わったところがひとつあります。全長457メートル、幅2メートルの海上遊歩道「トックップリ海岸探訪路」が、2024年5月に開通したことです。
まるで海の上を歩いている気分を味わえるこの海上遊歩道を渡ると、海へとぐいと突き出したトウックップリにたどり着きます。ここから徳積小中高校のある鎭里集落の砂浜までの約700メートルは、鬱蒼とした森のなかの小道を歩かなければなりません。広すぎず、こぢんまりとした趣のある道です。この道を歩いている間、耳に届くのは鳥のさえずり、風のそよぎ、波の音などの自然の音だけです。わずか1kmの道はあまりに短く、かえって名残惜しさを感じるほどです。
この道の終点にある鎭里集落の砂浜は、徳積小中高校と隣り合っています。かつては島の外の人々もこの学校に立ち入ることができましたが、いまは事故防止のために立ち入り禁止状態です。
出発地であるドウ船着場へ引き返しました。帰り道の半分ほどは先ほどの道ですが、残りの半分は海上遊歩道ではなく、森の道を選びました。海上遊歩道が開通する前は、この道だけを歩いていました。往復約2kmのトウックッ海岸散策路を往復するには、およそ1時間ほどかかります。船の出発まで時間が微妙に残っているのなら、散策してもよいコースです。もちろん、わざわざ時間を割いて歩いてもいい、魅力的な海岸散策路でもあります。